屋根勾配については、「よくわからないので建築業者にお任せにした」という方も少なくありません。
しかし、屋根勾配デザインだけではなく屋根の耐久性やメンテナンス性にも大きく影響する部分ですので、屋根勾配を決める際は住居探しと同様に慎重に選ぶことが大切です。
また、屋根の面積は、リフォームの工事費用に大きく関わる部分ですので、ご自宅の屋根面積を把握しておくようにしましょう。
このページでは、屋根勾配の種類や表し方、屋根面積の求め方について説明いたします。
目 次
屋根勾配とは
屋根勾配とは、屋根の傾き(傾斜)の度合いを指す建築用語です。屋根勾配は一般的に、屋根の形状や屋根材の種類、地域の気候などを考慮して決められます。
屋根勾配には、雨や雪を適切に流す役割があり、傾斜を付けて屋根の上に雨や雪を溜めないことで、屋根の劣化や建物の倒壊、雨漏りを防いでいます。
そのため、積雪の多い山間部では雪の重みで建物が倒壊するリスクを避けるために、屋根勾配を大きくして雪が自然に落下しやすく設計されている場合が多いです。
反対に、人が密集する住宅街では、屋根勾配を30°程度に抑えることで落雪による近隣住民への被害を防ぐことができます。
屋根勾配の表し方
屋根勾配の表記には、「尺貫法勾配(寸法勾配)」「分数勾配」「角度勾配」の3つの表記方法があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
尺貫法勾配(寸法勾配)
尺貫法勾配とは、水平距離(横の長さ)10寸(303.03ミリメートル)に対して、傾斜の立ち上がりがどれほどの高さがあるのかを、寸を用いて表す方法で、数字が大きいほど傾斜の角度も増していきます。
尺や寸という長さの単位は、一般の方にはあまり馴染みのない単位かもしれませんが、建築・屋根業界では今でも長さの単位として尺や寸という尺貫法が使われています。
例えば、水平距離10寸に対して、高さが4寸であれば「4寸勾配」と表記します。
分数勾配
分数勾配は、基本的には尺貫法勾配と同じ考え方ですが、水平距離と高さの比率を分数で表す方法です。
水平距離10寸に対して、高さが4寸であれば4/10と表します。そのため、高さが5寸であれば「5/10」となりますが、約分して「1/2」と表すこともあります。
角度勾配
角度勾配とは、実際の傾斜の角度を表記したものです。一般の方はこちらの方がわかりやすいと感じる方も多いですが、建築・屋根業界ではあまり使われることはありません。
その理由としては、尺貫法勾配で4寸ものを角度勾配で表すとなると「21.8014度」となり、小数点以下が極端に細かくなってしまうという点が挙げられます。
屋根の勾配は3種類ある
屋根勾配には、角度の大きさによって「急勾配」「並勾配」「緩勾配」の3種類に分けられ、種類ごとにメリットやデメリットがあります。それぞれの特徴は以下の通りです。
急勾配
急勾配とは、6寸勾配(約31°)以上の屋根勾配を指します。
【メリット】
・傾斜により雨漏りのリスクが少ない
・デザイン性が高い
・小屋裏に大きな空間ができることで、断熱効果が高まる
・屋根の面積が広いため、屋根裏のスペースを収納や天窓などに有効活用することができる
【デメリット】
・屋根面積が大きいため、設置や塗り替えにコストがかかる
・メンテナンス時に屋根足場が必要となる
・屋根面積が大きいため、台風や風の影響を受けやすい
並勾配
並勾配とは、3寸勾配(約16.7°)以上〜5寸勾配(約26.6度)以下の屋根勾配を指します。
【メリット】
・幅広い屋根材から好みのデザインを選択できる
・一般的な勾配のため、雨漏りなどのトラブルに関しても様々なノウハウが蓄積されている
・傾斜によって雨や雪が溜まりにくい
・メンテナンス時に屋根足場が必要ない
【デメリット】
・広く普及している勾配なため、特徴のないデザインになりやすい
緩勾配
緩勾配とは、3寸勾配(約16.7°)以下の屋根勾配を指します。
【メリット】
・勾配が緩く屋根面積が小さいため、材料費や人件費などを抑えることができる。
・屋根面積が小さいため、台風や風の影響を受けにくい
・デザイン上、屋根を目立たなくさせることができる
・屋根の上に雪が留まりやすくなるため、落雪による被害を抑えることができる
【デメリット】
・傾斜の大きい屋根に比べ、雨漏りのリスクが高まる
・雨水やホコリ、ゴミなどが蓄積しやすいため、劣化が早く進行する可能性がある
・雪が一定以上積もった場合は雪下ろしが必要な場合がある。
屋根材ごとに最低勾配が決められている
屋根材によって雨への耐久性などが異なるため、屋根材の種類によって最低勾配が決められています。
指定以下の勾配にしてしまうと雨漏りや屋根材の吹き上げなどのリスクが高くなるため、屋根勾配の角度によっては施工できない希望の屋根材では施工ができない場合があります。
主な屋根材ごとの最低勾配は以下の通りです。
【主な屋根材別の勾配】
屋根の種類 | 最低勾配 |
---|---|
金属屋根(縦葺き) | 1寸(約5.7°)以上 |
金属屋根(横葺き) | 3寸(約16.7°)以上 |
スレート屋根 | 3寸(約16.7°)以上 |
瓦屋根 | 4寸(約21.8°)以上 |
アスファルトシングル | 5寸(約19.3°)以上 |
もし、屋根勾配で迷われている場合には、メリットが多くデメリットの少ない並勾配である「4寸勾配(21.8°)」で検討されることをおすすめします。
4寸勾配であれば、雨漏りしにくく、将来屋根を葺き替える際にも幅広い屋根材から好みのデザインを選ぶことが可能なため、急勾配や緩勾配の屋根にする明確な理由がない場合には、4寸勾配を選ばれるといいでしょう。
屋根勾配に関しては、屋根材だけではなく屋根の形状や地域の気候なども考慮する必要があるため、まずは専門業者へ相談してみましょう。
屋根面積の求め方は3通りある
屋根の面積が分からなければ、業者から受け取った見積書が相場どおりの内容なのかを判断することができず、相場以上の金額を業者に請求されていたとしても気づくことができません。
そのため、屋根・外壁塗装では、塗り替えをする面積によって金額が大きく変わるため、ご自宅の屋根面積を知ることはとても重要なことです。
屋根面積の求め方には、「屋根の投影面積から求める」「1階の床面積から求める」「瓦の枚数から求める」といった3通りの方法があります。
屋根投影面積から求める方法
屋根投影面積とは、屋根を上空から見下ろしたときの形で求められる面積のことです。この屋根投影面積から屋根面積を計算する場合には、以下の式で計算をすることができます。
「屋根投影面積×勾配伸び率=屋根面積」
また、屋根投影面積と勾配伸び率を調べる方法は以下の通りです。
屋根投影面積を算出する方法
■自分で計算する場合
1.Googleマップを使い自宅の住所を検索する
2.航空写真モードに切り替える(スマホ/パソコンどちらでも可)
3.写真を拡大し、屋根の形を確認する
4.屋根の形を紙に書き、メジャーで屋根の長さを測る
5.外壁から飛び出た、屋根の軒先の長さも測る
6.測った長さを紙にメモし、図面があれば照らし合わせる(単位が「mm」表示の場合は「m」に変換)
7.長さを確認したら、「建物の縦 × 横=屋根投影面積」で計算する
■メジャーがない場合
1.Googleマップを使って自宅の住所を検索する
2.航空写真モードに切り替える
3.写真を拡大し、屋根の形を確認する
4.Googleマップ上で右クリックし、「距離を測定」を選択
5.屋根の角を押すと、各辺の長さが表示される
6.長さを確認したら、「建物の縦 × 横=屋根投影面積」で計算する
勾配伸び率を確認する方法
屋根勾配が急になればなるほど、勾配が0度(水平)のときに比べ、屋根の長さは伸びていきます。そのため、屋根面積を求めるためには、屋根の勾配も考慮する必要があります。
この屋根の長さが底辺に対してどれぐらいの倍率なのかを求めたものが「勾配倍率」というもので、「 屋根の斜辺の長さ ÷ 屋根の水平距離」で伸び率を確認することができます。
また、以下の方法で勾配伸び率を確認することもできます。
・自宅の屋根の勾配を図面で調べる
・表記されている直角三角形の横軸を10とし、縦軸に記載された数字から勾配を確認する
・下記の屋根勾配の表で、該当の寸法勾配から勾配伸び率を調べる
勾配 | 勾配伸び率 | |
---|---|---|
寸法勾配 | 分数勾配 | 水平長さに対して |
5分 | 0.5/10 | 1.001 |
1寸 | 1.0/10 | 1.005 |
1寸5分 | 1.5/10 | 1.011 |
2寸 | 2.0/10 | 1.020 |
2寸5分 | 2.5/10 | 1.031 |
3寸 | 3.0/10 | 1.044 |
3寸5分 | 3.5/10 | 1.059 |
4寸 | 4.0/10 | 1.077 |
4寸5分 | 4.5/10 | 1.097 |
5寸 | 5.0/10 | 1.118 |
5寸5分 | 5.5/10 | 1.141 |
6寸 | 6.0/10 | 1.166 |
6寸5分 | 6.5/10 | 1.193 |
7寸 | 7.0/10 | 1.221 |
7寸5分 | 7.5/10 | 1.250 |
8寸 | 8.0/10 | 1.281 |
8寸5分 | 8.5/10 | 1.312 |
9寸 | 9.0/10 | 1.345 |
9寸5分 | 9.5/10 | 1.379 |
図面が手元にない場合は、一般的に広く普及している4〜5寸勾配で計算するといいでしょう。
1階の床面積から求める方法
1階の床面積をご存じであれば、そこから屋根面積を計算することができます。1階の床面積から求める際の計算式は、「1階の床面積×係数=屋根面積」です。
また、1階の床面積と係数を調べる方法は以下の通りです。
1階の床面積を算出する方法
床面積は、「縦の長さ(m)×横の長さ(m)」で求めることができ、図面にも表記されています。
また、図面が手元にない場合には、家の坪数からおおよその面積を算出することもできます。坪数から求める時の式は「坪数×3.3」で求めることができます。
係数を確認する方法
係数とは、屋根材の曲線や凸凹を含めた表面積を表したものです。金属屋根や瓦屋根では曲線の角度が変わるため、屋根の勾配によって係数も変わります。
また、化粧スレート屋根やアスファルトシングルの場合は、凹凸や曲線がほぼないので係数は使用しません。
【種類別の係数】
屋根の種類 | 係数 |
---|---|
セメント瓦 和瓦・J型 | 1.08 |
セメント瓦 和瓦・M型 | 1.16 |
金属屋根(瓦棒葺き)心木あり | |
金属屋根(瓦棒葺き)心木なし | 1.14 |
金属屋根(立平葺き) | 1.15 |
折板屋根 88mmタイプ | 1.44 |
折板屋根 150mmタイプ | 1.69 |
大波スレート | 1.14 |
小波スレート | 1.15 |
瓦の枚数から求める方法
建物に使われている屋根材が瓦の場合には、瓦の枚数からおおよその屋根面積を求めることができます。
瓦は、1坪あたり約53枚使われるので、「瓦の合計枚数÷53=屋根面積(坪数)」で計算することにより屋根面積の算出が可能です。また、単位を坪から㎡に変換する場合は、「屋根面積(坪数)×3.3=屋根面積(m2)」で面積を算出します。
屋根面積を求める時の注意点
屋根面積をご自分で計算される場合には、以下の点に注意する必要があります。
求めた面積と見積書の面積は異なる
実際の屋根の面積は、屋根材の種類によって変わりますので、材質が変われば表面積も異なります。そのため、計算で算出した屋根面積と見積書の面積が全く同じになることはありません。
ただ、見積書に表記されている面積が計算した面積と大幅に数字が離れている場合には注意が必要です。必ず複数の業者から見積もり取り、面積を比較するようにしましょう。
軒の出を忘れない
屋根面積を計算するときは、外壁の長さに両端の軒の出を必ず加えて計算をしましょう。軒の出を含まず計算してしまうと、数値に大きな違いが出てしまいます。
下屋根も忘れずに計算する
下屋根(げやね)とは、複数階建ての住宅で最上階より下(2階建てであれば1階)にある屋根のことです。
軒と同様に下屋根を含まず計算してしまうと、数値に大きな違いが出てしまうため、二階建て住宅の場合は下屋根も忘れずに屋根面積として計算をしましょう。
まとめ
屋根勾配は、建築業者に勧められるまま決められてしまう方も多いですが、デザインだけではなく将来葺き替えなどで使用できる屋根材や耐久性、メンテナンスなど様々な面に影響しますので、将来設計に合わせて屋根勾配を選択することが重要です。
また、ご自宅の屋根面積を把握しておくことで、業者の信頼性や工事費用の判断にも役に立ちますので、前述でご紹介した計算方法を参考にぜひ計算をしてみましょう。
もし、屋根勾配について悩みや疑問に感じる点があれば放置せずに専門業者に相談することが大切です。状況によっては屋根の勾配を微調整したり、屋根を解体して作り直すなどの方法で問題を改善できる場合もあります。