パミールとは、1996〜2008年まで製造・販売されていたスレート屋根の商品名です。スレート屋根は、雨風や紫外線の影響を受けることで劣化が進行していくため、一般的には約10年を目安に定期的な塗装が必要となります。
しかし、パミールの場合には、塗装でメンテナンスをおこなってもすぐに剥がれてしまう可能性が高いため、メンテナンスの際には注意が必要です。
このページでは、パミールの特徴や問題点、メンテナンス方法について説明いたします。
パミールとは
パミールとは、外装建材メーカーのニチハが1996年〜2008年まで製造・販売していたスレート屋根の商品名です。
2006年以前のスレート屋根には、スレートの強度を確保することを目的としてアスベストが使用されていましたが、健康被害が報告されたことで、段階的にアスベスト製品の製造・販売規制がかかり、2006年には全面的にアスベストの使用が禁止されました。
そのため、アスベストの人体への影響が懸念され始めた頃から、各メーカーによってアスベストを含まない屋根材の開発が始まり、いち早く製造販売を始めたのがニチハのパミールでした。
当時、アスベストを含まない画期的な屋根材として注目を集め、全国に広く流通していましたが、現在は製造中止となっています。
パミールが塗装ができない理由
一般的なスレート屋根であれば、メンテナンスとして定期的に塗り替えをおこないますが、パミールの場合、塗装によるメンテナンスはできません。
パミールは、薄い板を一枚ずつ重ね合わせ圧縮して水分を抜いていく抄造法(しょうぞうほう)という製造されています。抄造法で製造されたパミールは、1枚1枚の層に水が入りやすく、経年とともに屋根材が剥がれる層状剥離というものが発生しやすいという特徴があります。
層状剥離している屋根材では、いくら耐久性の高い上塗り材で塗装をしたとしても、3年も経たないうちに塗膜が剝がれてしまい、塗装工事にかかけた費用と時間が無駄になってしまいます。そのため、塗装でのメンテナンスをすることができないのです。
また、屋根材自体がボロボロになってしまっているため、水圧によって屋根材がバラバラになる可能性が高いことから、高圧洗浄もできません。さらに、水圧だけではなく、職人が屋根の上で作業するだけでも重さで割れてしまう可能性があります。
パミールと同様に塗装を避けた方が良い屋根材
ニチハのパミールは、アスベストを含まない「ノンアスベスト屋根材」の先駆けとなる製品ですが、実はその他の屋根材メーカから発売されていたノンアスベスト屋根材でも、塗装ができないという問題を抱えた屋根材が存在します。
1990年代中頃から2000年代中頃に製造された屋根材では、メーカーを問わずアスベストに代わる素材で試行錯誤の上製造・販売した結果、問題を抱えた屋根材が誕生してしまいました。代表的な製品としては以下のものがあります。
かわらU(セキスイ)
かわらUは、1975年から1990年の15年間は、アスベストが含まれて製造されていましたが、1990年からは、無石綿タイプ(ゼロアスベスト)の屋根材として2007年まで販売されていました。
かわらUは、塗膜や基材の剥がれ、ひび割れ、陥没など様々な不具合が報告されています。アスベストが含まれていない弱く脆い屋根材のため、屋根を歩くと瓦がバリバリに割れてしまう可能性があるため、細心の注意を払う必要があります。
アーバニー・コロニアルNEO(クボタ)
アーバニー(アーバニーグラッサ)は、2001年から2005年まで販売されていたノンアスベストのスレート屋根材です。
販売当時は、大きな切れ目(スリット)で高級感を演出したクボタの屋根材の中でも最高級のグレードとして販売されいましたが、この大きな切れ目が細かく入っていることで、割れが一層発生しやすくなってしまい、発売からわずか4年程で販売中止となってしましました。
コロニアルNEOは、2001年から2008年まで販売されていましたが、ひび割れ・欠け・変色が起こりやすいという特徴があります。
また、旧クボタでは2001年から製品名の末尾に「~NEO」と付く製品が様々販売されましたが、いずれも同じ材質のスレート屋根材のため、コロニアルNEOと同様の症状が生じやすいので注意が必要です。
同じ材質で製品名の末尾にNEOが付く製品は以下の通りです。
・セイバリーNEO
・スペリアルNEO
・ミュータスNEO
・グリシェイドNEO
レサス・シルバス(松下電工)
レサス(ピュアベスト900シリーズ)は、1999年から2006年まで製造されていましたが、強度が低いためひび割れや欠損しやすく、点検のために屋根の上を歩くだけでも、割れてしまう可能性があります。
また、シルバスはレサスの上位グレードとして2001年から2003年まで製造されていましたが、レサスと同様に、ひび割れ、欠損が多く発生しています。
シルバスは、大きな大きな切れ目(スリット)が入ったデザインをしていますが、、この大きな切れ目が細かく入っていることで、割れが一層発生しやすくなっています。
さらに、通常のスレート屋根の塗装では必要な、「縁切り」や「タスペーサー」の作業でも強度が低いため、割れが起きやすいので注意が必要です。
パミールの不具合と劣化症状
層状剥離
パミールは、前述の通り抄造法で製造されているため、層状剥離が起こりやすいという特徴があります。
パミールの基材が雨などの水分を吸収し、乾燥・硬化を繰り返すことで、7年ほど過ぎるとルフィーユ状に先端が剥がれてしまうことで、ミルフィーユ現象とも呼ばれています。
剥離が進行すると固めていたセメントがボロボロと崩れ始め粉々になっていきます。強い風が吹くと破片が飛散してしまう恐れがあり、実際に2019年には、世田谷区でパミールが飛散し、隣の家の窓ガラスを突き破るという事故が発生しています。
先端部が白っぽくなる
劣化の初期症状として、パミールの先端が白く変色していきます。この症状が現れている場合は、すでに基材が脆くなり水分を吸収しやすい状態になっています。
この状態を放置すると、あっという間に全体へ症状が広がり屋根自体がボロボロの状態になってしまいます。
ひび割れ
パミールは強度が低いため、屋根の上を歩くだけでも、割れてしまう可能性があります。また、屋根材を固定している釘を踏んでしまうことでもひび割れが発生する恐れがあるので注意が必要です。
釘の腐食
ニチハでは、釘のメッキ処理が不十分であったため、腐食しやすく屋根材がズレたり落下する不具合が生じる可能性があるとして釘のリコールがされています。
・ラスパート釘(屋根材「パミール」付属品)に関するお詫びとお知らせ
屋根材のズレ
釘で固定されていた屋根材が、釘の腐食によってズレてしまうことがあります。ズレた屋根材をそのまま放置してしまうと、屋根材が落下し事故に繋がる恐れもあるため注意が必要です。
パミールのメンテナンス方法と費用
カバー工法
カバー工法は、既存の屋根材の上から、新しい防水シートと屋根材を被せる方法です。屋根材の解体費・処分費がかからないため比較的安価にリフォームをおこなうことが出来ます。
カバー工法にかかる費用は、70~150万円程度が相場となります。
葺き替え
葺き替えは、今までの屋根材を全て撤去し、新しい屋根材に葺き替える方法です。施工の流れとしては、既存の屋根材を全て撤去してから、新しい防水シートと屋根材を設置します。
葺き替えでは、下地の木材自体も新しく交換することができるので、屋根全体の耐久性が向上するメリットがあります。
葺き替えにかかる費用は、100~200万円程度が相場となります。