防水工事は、雨漏りを防ぎ、建物の耐久性を維持するための重要な工事です。万が一防水工事を怠ると劣化した箇所から雨漏りの発生に繋がってしまいます。
雨漏りは木材の腐食や白アリ、カビの発生などを引き起こし、建物全体の耐震性にも大きく影響するため、定期的な点検やメンテナンスを行う必要があります。
このページでは、防水工事の種類やよく見られる劣化症状、メンテナンス方法について説明いたします。
防水工事とは?
防水工事とは、建物の屋上や屋根、ベランダ、バルコニーなど直接雨にさらされる場所から、雨水が建物内部に浸入するのを防ぐことを目的とした工事のことです。
新築やリフォーム直後は問題がなかったとしても、経年劣化や物理的なダメージを受けることによって防水機能が低下してしまうことがあります。
防水機能が低下してしまうと、雨漏りが発生し木材の腐食や白アリ、カビの発生などを引き起こしてしまう可能性があり、カビなどによる健康被害や建物全体の耐震性にも大きく影響するため注意が必要です。
防水工事の種類
防水工事には、様々な工法や材料がありますが、大きく分けると「ウレタン防水」「塩ビシート防水」「FRP防水」「アスファルト防水」の4つに分けることができます。
次にそれぞれどんな特徴があるのかご紹介します。
ウレタン防水
ウレタン防水とは、液状のウレタン樹脂を2〜3回塗り重ねて防水層を形成する工法で、液状で弾力性があるため複雑な形の屋上や、建物が動きやすい木造建物の屋上にも適した工法です。
ウレタン防水のメリット
ウレタン防水は、他の工法に比べ費用が安く、液状の防水材を使用するため継ぎ目の無い綺麗な防水層に仕上げることができるというメリットがあります。継ぎ目が無いので、隙間から雨水が入り込むリスクも少なくなります。
また、ウレタン防水は既存の防水層の上から重ね塗りができるため、部分補修も可能でメンテナンス性が高いというメリットもあります。
さらに、既存の防水層を撤去する必要がないので、処分にかかる手間や費用を削減することができます。
ウレタン防水のデメリット
ウレタン防水は、ペンキなどと同様に人の手で塗装していく工法なので、職人の腕によって仕上がりが左右されてしまいます。ムラの無い均一な仕上がりにする為には、職人の高い技術力と豊富な経験が必要となります。
防水層にムラができてしまうと本来の防水機能が発揮できず、早期に剥がれたり、雨漏りに発展してしまう可能性もあります。
またウレタン防水は、塗装後に十分に乾燥させる必要があるので、他の工法に比べて工期が長くなってしまうというデメリットもあります。
ウレタン防水の耐用年数と施工費用相場
ウレタン防水の耐用年数は10年〜12年程度で、施工費用は、1㎡あたり3,000円〜7,000円程が相場となります。
ウレタン防水の工法と施工方法
ウレタン防水には、「密着工法」と「通気緩衝工法」の2種類の工法があります。どちらもウレタン防水材を塗って防水層を形成しますが、工程の内容や施工できる場所に違いがあるという点に注意する必要があります。
特に注意が必要な点としては、「密着工法は雨漏りが起きている部位では行えない」という点が挙げられます。そのため、現在雨漏りが起きてしまっているという場合には、通気緩衝工法で施工を行う必要があります。
それぞれの大まかな施工の手順は以下の通りです。
・密着工法(X-1工法)
1.既存の防水層を撤去した後、下地を綺麗に洗浄します。
2.ウレタン樹脂の塗布と乾燥を数回繰り返します。
3.最後に、形成した防水層を保護する為にトップコートを塗布して完了です。
・通気緩衝工法(X-2工法)
1.既存の防水層を撤去した後、下地を綺麗に洗浄します。
2.仮防水を行い、接着剤を塗って通気緩衝シートを貼ります。
3.下地に含んだ水分・湿気を逃がせるように、脱気筒やドレンを設置します。
4.ウレタン樹脂の塗布と乾燥を数回繰り返します。
5.最後に、形成した防水層を保護する為にトップコートを塗布して完了です。
塩ビシート防水
塩ビシート防水とは、塩化ビニル樹脂を原料とした防水シートを接着剤や機械で素地に貼って防水層を形成する工法です。
大きなシートを広げて貼り付けていく工法なので、ウレタン防水に比べて一度に広範囲の施工をすることができます。そのため、マンションやビルの屋上など広い場所の防水工事に適した工法です。
塩ビシート防水のメリット
塩ビシート防水は、ウレタン防水やFRP防水などの塗膜防水と比べ、耐久性に優れているメリットがあります。例えば、レタン防水の耐用年数は10年〜12年程度ですが、塩ビシート防水は10年〜20年程度と耐用年数が長いという特徴があります。
また塗膜防水の場合は、職人が手作業で塗装していくため、広い面積の施工となると非常に手間と時間がかかります。
しかし、塩ビシート防水であれば、既製品のシートを貼る工法なので広範囲な場所であっても品質を一定に保ちながらスピーディーに作業を行うことができるというメリットもあります。
塩ビシート防水のデメリット
塩ビシート防水は、シートを広げて貼り付けていく工法なため、形状が複雑な場所での施工は不向きです。
凹凸が多い場合では、シートを施工箇所に合わせてカットし貼り付けていきますが、その際にすき間ができてしまうとそこから雨水が入り込んでしまうリスクがあります。
また、機械固定工法で施工を行う際には、金具を固定する為に下地にドリルで打ち付けるので、作業中に振動音が発生します。
そのため、下の階の住人や近隣の建物に対する騒音対策をしっかりと行う必要があります。
塩ビシート防水の耐用年数と施工費用相場
塩ビシート防水の耐用年数は10年〜20年程度で、施工費用は、1㎡あたり4,000円〜7,000円程が相場となります。
塩ビシート防水の工法と施工方法
塩ビシート防水には、「機械固定工法」と「密着工法」の2種類の工法があり、それぞれ材料によって使い分けられます。それぞれの特徴や大まかな施工の手順は以下の通りです。
・機械固定工法
機械固定工法は、固定用のディスクを設置して、塩ビシートを屋上下地に固定する工法です。コンクリート用電動ドリルでディスクを下地に固定するため、作業中にかなりの振動音が発生するため、ご近所への配慮が大切です。
ただし、接着剤を使わずに既存防水層の上からディスクで防水シートを接着するため、撤去費や廃材処分費を抑えることができるというメリットもあります。
施工手順は以下の通りです。
1.樹脂アンカーやビスの引抜試験で下地の強度を確認し、下地を綺麗に洗浄します。
2.下地の上に絶縁シートを貼ります。
3.防水シートを固定するためのディスクを取り付けます。
4.シワや弛みがないよう防水シートを敷きます。
5.取り付けた金具に防水シートを溶着し固定します。
・密着工法
密着工法は、下地に直接防水シートを接着剤で貼り付ける工法です。機械固定工法よりも費用を安く抑えられ、工期も短縮できます。
ただし、下地の影響を受けやすく通気性がないため、雨漏りしている建物の場合は不向きです。また、溶剤系の接着剤を使用するので、火災や吸い込みによる中毒に注意が必要です。
施工手順は以下の通りです。
1.既存の防水層を撤去した後、下地を綺麗に洗浄します。
2.下地との接着力強化のため、プライマーや樹脂モルタルなどを均一に塗布します。
3.接着剤を下地とシートの裏面に均一に塗布します。
4.シワや弛みがないよう防水シートを貼り付けます。
FRP防水
FRP防水は、ガラス繊維などで強化されたFRPと呼ばれるプラスチックを重ねていくことで防水層を形成する工法です。
FRPは浴槽や貯水槽などにも使われる硬くて防水性に優れた素材で、樹脂を塗布するのでウレタン防水同様、複雑な形状でも施工が可能です。
また、硬化剤を加えた液状の不飽和ポリエステル樹脂に、さらにガラス繊維を加えた防水材を用いるため、軽量な上に強靭で耐水性、耐食性、耐候性に優れているという特徴があります。
FRP防水のメリット
FRP防水は、軽量な素材なため住宅にかかる負荷が小さくなり、住宅への負担を抑えることができるので、他の工法に比べて、耐震性が高いというメリットがあります。
また、繊維強化プラスチックを使用しているため強度があり、衝撃にも強いのが特徴です。そのため、ベランダやバルコニーなど人の出入りや歩行が多い場所にも施工が可能です。
FRP防水のデメリット
FRP防水は、材料費が高いため、他の工法に比べて施工費用が高いというデメリットがあります。ウレタン防水やシート防水と比較すると、2倍近くの費用が必要になる場合があります。
また、伸縮性が低いため木造などの収縮性がある場所で使用するとひび割れを引き起こす可能性があるため、木造で広い面積の施工場所には不向きです。
FRP防水の耐用年数と施工費用相場
FRP防水の耐用年数は8年〜10年程度で、施工費用は、1㎡あたり5,000円〜8,000円程が相場となります。
FRP防水の施工方法
FRP防水の大まかな施工手順は以下の通りです。
1.下地を綺麗に洗浄した後、下地との接着力強化のため、プライマーを塗布します。
2.防水層を形成するポリエステル樹脂を塗り、ガラスマットを貼り付けていきます。
3.防水層の形成が完了した後、研磨機でガラスマットの表面を磨きます。
4.FRP防水表面の油分をアセトンで拭き取って除去します。
5.防水層を保護するため、全体にトップコートを塗布します。
アスファルト防水
アスファルト防水は、不織布にアスファルトを含浸・コーティングしたシート状のルーフィング材を使用する工法で、ルーフィング材を貼り重ねて防水層を形成する工法です。
塩ビシート防水と同様に、大きなシートを広げて貼り付けていく工法なので、ウレタン防水に比べて一度に広範囲の施工をすることができます。そのため、マンションやビルの屋上など広い場所の防水工事に適した工法です。
アスファルト防水のメリット
アスファルト防水は、防水層を重ねて厚くするため、他の工法よりも耐荷重性に優れているという特徴があります。さらに、耐久性や水密性も高いため、非常に防水性に優れているというメリットもあります。
また、アスファルト防水は、日本の防水工法の中で最も古い歴史があります。そのため、防水効果に関するデータも豊富で信頼性が高い工法です。
アスファルト防水のデメリット
アスファルト防水は、アスファルトを溶かすため、均一に接着や伸ばす必要がありますし、均一に熱しなければいけません。そのため、施工する職人には、経験に基づく高い技術力が求められます。
アスファルト防水工事の実績が少なかったり、技術不足だったりする業者に依頼してしまうと、施工不良などトラブルが発生するリスクがあるため注意が必要です。
アスファルト防水の耐用年数と施工費用相場
アスファルト防水の耐用年数は15年〜20年程度で、施工費用は、1㎡あたり5,000円〜8,000円程が相場となります。
アスファルト防水の施工方法
アスファルト防水には、大きく分けて「熱工法」「トーチ工法」「常温工法(冷工法)」の3種類の工法があります。それぞれの特徴や大まかな施工の手順は以下の通りです。
・熱工法
熱工法は、現場で溶融窯を使用してアスファルトを熱しながら、アスファルトルーフィングと呼ばれる防水材料を貼り重ねていく工法です。液体のアスファルトとアスファルトルーフィングシートを組み合わせることで、密着性の高い強固な防水層を形成します。
熱工法は、国内では最も古くから採用されてきた伝統的な工法で、現在では超高層ビルなどで用いられています。現場では溶融窯でアスファルトを熱するため、煙や臭いが発生するので近隣への十分な配慮が必要です。
熱工法の大まかな施工手順は以下の通りです。
1.下地を綺麗に洗浄した後、雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
2.下地との接着力強化のため、プライマーを塗布します。
3.パラペット立ち上がり部にアスファルトルーフィングシートを貼り付けます。
4.アスファルトルーフィングシートに溶融したアスファルトを流しながら貼り付けます。
5.溶融したアスファルトをシートに塗ります。
・トーチ工法
トーチ工法とは、不織布にアスファルトを含侵させた防水材を、バーナーを使って炙りながら接着していく工法です。工場であらかじめ製造したアスファルトシートを積層して、防水層を形成します。
アスファルトの融解温度140〜160度に対して、トーチ工法で使用するバーナーは1000度以上の炎を噴射するため手早く貼り付けることができます。
トーチ工法の大まかな施工手順は以下の通りです。
1.下地を綺麗に洗浄した後、雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
2.下地との接着力強化のため、プライマーを塗布します。
3.パラペット立ち上がり部にアスファルトルーフィングシートを貼り付けます。
4.トーチバーナーでシート裏面と下地をあぶり、アスファルトを溶解させ張り合わせます。
5.防水層を保護するため、全体にトップコートを塗布します。
・常温工法(冷工法)
常温工法は、熱工法やトーチ工法と違い、熱でアスファルトを溶かさずに常温で施工する工法です。ローラーを用いてアスファルトルーフィングを密着させ積層し、防水層を作り上げていきます。
常温工法は煙や臭いが発生しないため、住宅が密集している場所に向いていますが、温度の低い冬場での施工は、凍結や接着の不良を起こす可能性があるので注意が必要です。
常温工法の大まかな施工手順は以下の通りです。
1.下地を綺麗に洗浄した後、雨水を流すためのドレン(排水溝)を設置します。
2.下地との接着力強化のため、プライマーを塗布します。
3.パラペット立ち上がり部にアスファルトルーフィングシートを貼り付けます。
4.改質アスファルトシートを下地に貼り付けます。
5.シートの貼り合わせ部分にシール材を充填します。
6.防水層を保護するため、全体にトップコートを塗布します。
よくある劣化症状
ベランダや屋上防水で起こりやすい劣化症状には、以下のようなものがあります。
色あせや表面の擦れ
ベランダや屋上の床が、紫外線などの影響による経年劣化や土埃や鳥のフン、苔などの汚れ、人がよく立ち入るなどが原因で表面が色あせたり、すり減ってしまうことがあります。
早急にメンテナンスをしなければ雨漏りが発生するというわけではありませんが、そのまま放置してしまうと変色が進み元の色に戻らなくなってしまうことがあるため、色あせや変色が見られる場合はメンテナンスを検討し始める時期ではあります。
特に、FRP防水では摩耗するとガラス繊維が露出してくるため、症状が顕著に現れます。症状の程度によっては、表面の「トップコートの塗り替え」もしくは「防水層から新しく施工し直す」必要があります。
亀裂やひび割れ
紫外線や雨などの影響による経年劣化が原因となり亀裂やひび割れが発生することがあります。
表面のトップコートのみひび割れしている場合、雨漏りの心配は大きくありませんが、防水層自体にダメージが拡がってしまう前にトップコートの塗り替えを行うようにしましょう。特に、ウレタン防水やシート防水は経年のよってだんだんと弾性が失われていくことで割れが起こりやすくなります。
下地が見えてしまうような大きなひび割れがある場合は、そこから雨水が入り込み雨漏りの原因となりますので、防水工事を行って新たに防水層を形成する必要があります。
防水層の膨れ
施工不良や防水層内部に侵入した水分が蒸発し、水蒸気が溜まってしまうことが原因となり防水層が膨れたり浮いてしまうことがあります。
膨れや浮きをそのまま放置してしまうと、外部からの刺激によって防水層が割れ、空いた穴から素地が露出してしまう恐れがあります。
穴が開いてしまうと雨水が入り込み雨漏りの原因となりますし、防水層が膨れるということは下地が水分を含んでいる証拠とも言えます。
もし膨れや剥がれが起きている場合は、古くなった防水材を撤去して、新たに防水層を形成する必要があります。
剥がれや破れ
経年劣化や施工不良などによって、防水層が剥がれたり破れてしまうことがあります。
防水工事の際に、下地処理や下塗りが不十分だったり、下地に水分が含んだままの状態で施工することによって、防水層の密着力の低下や膨れが起こることで、防水層が剥がれたり破れてしまう場合があります。
防水層が剥がれてしまうと、その部分から雨水が入り込み防水層の劣化を進行させてしまい、雨漏りが発生してしまう危険があるため、早急に古くなった防水材を撤去して、新たに防水層を形成する必要があります。
特にシート防水の場合は複数のシートを繋ぎ合わせて防水層を形成しているため、シート同士の繋ぎ目から剥がれていくケースが起こりやすいので注意が必要です。
水が溜まっている
ベランダや屋上に砂や雨水が溜まりやすくなっている場合は、表面が擦れて撥水性が弱まっている可能性があります。
その他にも、雨樋や排水口が詰まっていたり、床の傾斜が緩く雨水が正しく排水できていない場合もありますので、いつも同じような場所に雨水が溜まるという場合には要注意です。
そのまま放置してしまうと防水層が劣化し雨漏りの原因になりますので、雨樋の掃除を入念に行い、しっかり排水ができるようにしておきましょう。
もし傾斜不足が原因の場合には、業者に依頼をして、傾斜を調整してもらう必要があります。
雑草やコケの繁殖
床に水が溜まっていたり鳥のフンに含まれている種子が床に付着することによって雑草やコケが根を張り繁殖してしまうことがあります。
特にガーデニングをしている場合は、雑草やコケが生えやすくなるため、肥料や土などによって排水口が詰まらないように注意する必要があります。
雑草やコケの発生は日頃のお手入れで未然に予防することができますので、繁殖が広がらないように定期的に掃除を行うようにしましょう。
雨漏り
上記の劣化症状をそのまま放置したことが原因となり、雨漏りが発生する場合があります。雨漏りが進行すれば建物を支えている柱や土台の腐食、白アリやカビの発生などに発展します。
カビが繁殖することによってアレルギー性鼻炎や皮膚の炎症が起こるアトピーなどのアレルギー症状が起こることがあります。
さらに、そのような環境ではカビを餌とするダニの繁殖やネズミが侵入する恐れがあり、ダニの死骸やネズミのフンもアレルギー症状の原因となりますので注意が必要です。
また、建物を支えている柱や土台の腐食によって建物の耐震性が低下すると、地震などの災害時に建物が倒壊してしまう危険性もあります。
まとめ
防水工事は建物の耐久性を維持するためには欠かせない重要な工事です。
防水は、経年によって確実に劣化が進行します。目に見える劣化症状や雨漏りなどの症状がなかったとしても、点検を行ってみると内部で劣化が進んでいたというケースも少なくありません。
そのため、雨漏りによって建物に重大な被害を引き起こさないためにも、10年に一度を目安に点検やメンテナンスを行うようにしましょう。