日本は、地震大国と呼ばれるほど地震の発生が多く、世界で発生しているマグニチュード6以上の地震の約2割が日本周辺で発生しています。
北海道から九州までわかっているだけでも約2,000もの活断層があり、30年以内に70〜80%の確率で南海トラフ地震も発生するとされているため、築年数の経過した住宅を中心に屋根の耐震リフォームの緊急性もさらに高まっています。
そこでこのページでは、屋根の耐震性を向上させるための屋根軽量化リフォームのメリットや注意点などについて説明いたします。
目 次
屋根は重いほど地震の揺れは大きくなる
建物全体の重さは、壁や柱、基礎部分などで支えられているため、屋根が重ければ重いほど建物を支える構造体への負担が大きくなります。
そのため、建物が地震や台風にも耐えられるよう建物を支える役割を持つ耐力壁の数が建築基準法で定められており、新築時には重い屋根ほど地震や風圧に耐えられるよう壁を増やして設計する必要があります。
ただ、重い屋根は重心が高くなってしまうため、地震発生時に振り子のように横の揺れ幅が大きくなってしまうという傾向があります。
揺れ幅が大きくなることで、建物を支えている柱や壁に大きな負担がかかるため、重い屋根から軽い屋根にリフォームすることで、建物にかかる負担を軽減することができるのです。
屋根の軽量化や強化で得られるメリット
耐震性が向上する
屋根を軽量化する最大のメリットは、耐震性が向上するという点です。建物の総重量が軽くなることで、基礎や柱にかかる負担を減らすことができます。
さらに、屋根が重く重心が高くなってしまうと振り子のように大きく揺れて、建物の基礎や柱などの構造体に負担がかかってしまいますが、屋根を軽量化することで地震時の揺れ幅を軽減することが可能です。
断熱性が上がる
一昔前に建てられた建物では、屋根内部の断熱対策が不十分だったり、断熱材自体が老朽化してしまっているケースも少なくありません。
そのため、屋根軽量化リフォームを機に断熱材の入れ替えを行うことで、断熱性能を向上させることが可能です。断熱性能が向上することによって、室内の温度をより快適に保つことができるので光熱費の削減も期待できます。
安全が確保できる
屋根軽量化リフォームで耐震性が向上することによって、地震などの自然災害が発生した際に住人の安全確保にもつながります。
大きな地震や台風などの自然災害などでは、建物が倒壊しなくても屋根材が落下してしまう可能性があります。特に、昔ながらの日本瓦は瓦自体が重いため、落下してしまうと大きな被害が生じやすくなってしまいます。
落下した屋根材が人や物に直撃してしまうと大事故になってしまいますし、地面に落ちただけでも割れて破片が飛び散り大変危険です。
そのため、軽量な屋根材を屋根にしっかりと固定することで屋根の破損や落下のリスクが低減し、万が一の際にも被害を最小限に抑え、家族の安全を守るということにもつながります。
瓦屋根は耐震性が低いはウソ?
瓦屋根は耐震性が低いと言われる大きな理由としては、他の屋根材に比べると重さがあるという点が挙げられます。建物は、地震によって地面が動くことによって慣性力がかかり揺れが生じます。
この慣性力とは、止まっているバスが進行方向に加速した時、乗客は後ろ向きに力が働いているように感じる力のことで、質量が大きいものほど慣性力も大きく加わるため、重い瓦屋根では揺れが大きくなってしまうのです。
そのため、構造体が同じという条件であれば、軽量な屋根材に比べると瓦屋根は地震の影響を受けやすいということになります。
ただ、建築基準法では建物の重さや床面積などに応じて耐力壁の必要量が定められており、重い瓦屋根の場合には、軽い屋根よりも壁を増やして必要な耐震性を確保するよう設計されています。
そのため、屋根が重いほど確かに慣性力は働きやすくはなりますが、屋根の重さと構造体の強度のバランスがとれている建物であれば、十分な耐震性を発揮することができるのです。
正しくは旧耐震基準の建物が地震に弱い
建物の耐震性は、屋根の重さだけではなく柱や壁などの構造体の強度も重要です。
そのため、瓦が原因で建物が倒壊するという訳ではなく、柱などの構造体が傷んでいたり旧耐震基準の建物であれば、どんな軽い屋根材であったとしても建物が倒壊する危険性は十分にあります。
反対に、震度6強〜7の地震にも耐えられる現行の耐震基準で建てられた建物であれば、耐震性についての不安は少ないと言えます。
瓦屋根は地震で落ちる?
旧来の施工方法では、釘などを使用せず粘土の接着力で固定する土葺きが一般的でした。
しかし、土葺きでは平部の瓦の留め付けが弱く、台風などの強風や大きな地震によって落下する危険性があることから、令和4年に瓦屋根の施工方法について基準の改正が行われました。
新基準では、新築や増築の建物では原則全ての瓦をネジや釘で固定するよう義務化されたため、強風や地震によって落下するリスクは大幅に軽減されています。
また、瓦自体も軽量化されたり瓦同士を連結する金具が設けられたりと防災機能が備えられた防災瓦と呼ばれる製品も登場しています。
そのため、現行の基準や工法に沿って地震対策を行うことで、瓦屋根であっても十分な耐震性を維持することが可能です。
軽量化材料の種類と特徴
屋根を軽量化する屋根材としては、主に化粧スレートや金属屋根材であるガルバリウム鋼板、アスファルトシングル、軽量防災瓦などがあります。
それぞれの特徴は以下の通りです。
化粧スレート
化粧スレートは、メントに繊維素材を混ぜて薄い板状に加工した屋根材で、リーズナブルで表面に施されている塗装の色やデザインが豊富なため、自分好みのデザインを選ぶことができます。
重さも1㎡あたり約20㎏と瓦の半分程度の重さに抑えることができます。
ただ、スレート自体は防水性の低い屋根材なので、表面の塗膜は紫外線や風雨によって防水性が低下してしまいます。そのため、10年程度を目安に塗装による定期的なメンテナンスが必要です。
ガルバリウム鋼板
ガルバリウム鋼板は、鉄の鋼板をガルバリウムという合金でメッキ処理した金属製の板のことで、1㎡あたり約5㎏と化粧スレートと比べても非常に軽量なのが特徴です。
屋根の重さを大幅に軽量化できるだけではなく、金属系の屋根材の中でも耐久性が高くデザインも豊富なことから、現在戸建て住宅のリフォームでは圧倒的なシェアを誇っています。
ただ、ガルバリウム鋼板は薄い屋根材のため、強風によって外部からの飛来物がぶつかってしまうと、変形したり穴が開いてしまうことがあります。
穴が開いたり、表面の塗装が剥がれてしまうと、その部分からサビが進行していきますので、被害に気付いたらすぐに補修を行う必要があります。
アスファルトシングル
アスファルトシングルは、不燃布やガラス繊維を原料とした基板にアスファルトを浸透させ、さらにその上から細かい石粒や砂を施した屋根材で、重さは1㎡あたり約12㎏と、スレート屋根の半分、瓦屋根だと1/4程度と非常に軽量です。
また、柔らかい素材なので硬い屋根材のようにひび割れる心配がなく、複雑な形状の屋根でも施工が可能です。
ただ、アスファルトシングルを固定するために使われている専用の接着剤が、経年劣化によって接着力が弱まっていたり、施工時の接着が不十分だった場合には、強風などで屋根材が剥がれたり浮いてしまう可能性があります。
そのため、特に山間部などの風が強い地域での採用には注意が必要です。
軽量防災瓦
軽量防災瓦とは、従来の瓦より軽量になるように加工された瓦のことで、台風などの強風で瓦がずれたり飛散しないよう釘による固定だけではなく、屋根材と同士が噛み合うように設計されています。
従来の釘打ちによる固定だけではなく、瓦1枚1枚が嚙み合って屋根にしっかりと固定されることで、強風や地震によるズレや落下を防ぐことができます。
軽量屋根材と比べると重い屋根材ではありますが、耐久性が非常に高く、メーカーによっては従来の瓦の半分程度まで重さを軽減させることが可能です。
屋根軽量化のリフォームに必要な費用
屋根軽量化のリフォームでは、既存の屋根材を全て撤去して、新しい屋根材に葺き替える葺き替え工事を行います。
屋根軽量化のリフォームに必要な費用は、建物の構造や規模、屋根材の種類などによって大きく異なりますが、約30坪の建物の場合で、100〜240万円程度の費用が必要となる場合が多いです。
ただ、屋根の形状が複雑な場合や、補強工事が必要な建物の場合には、さらに費用が必要となる可能性もあります。
屋根材別の費用比較
屋根材によっても、工事費用は大きく異なります。屋根材ごとの費用相場は以下の通りです。ただし、これはあくまでも屋根材にかかる費用の目安で、工事費や付帯工事費用などが別途発生します。
屋根材 | 耐用年数 | 費用相場 |
---|---|---|
化粧スレート | 20~25年 | 4,500~8,000円/㎡ |
ガルバリウム鋼板 | 25~40年 | 5,000~10,000円/㎡ |
アスファルトシングル | 20~30年 | 5,000~8,500円/㎡ |
軽量防災瓦 | 30~50年 | 6,000~12,000円/㎡ |
屋根を軽量化する場合の注意点
コストや工期がかかる
屋根軽量化のリフォームでは、既存の屋根材を全てはがし、屋根そのものを全て新しいものに葺き替えることになります。
既存の屋根材を撤去した際に、下地材を新たに交換することで劣化や雨漏りなどの症状を根本的に解決できるというメリットはあります。
ただ、大規模な工事になるので工期が1週間〜10日間と長く、高額な工事費用がかかるという問題もあります。耐震診断(一般診断)を併せて行う場合には、建物の規模や地域などによって異なりますが、10〜40万円程度の費用が必要となります。
屋根を軽量化するだけでは十分と言えない
建物の耐震性は、地震や風圧などによる水平方向の外力に耐えるために必要な構造体の強さの基準である必要耐力や耐力壁のバランスによって決まります。
それ以外にも地盤や基礎の強度なども影響するため、1950年から1981年まで施行されていた旧耐震基準で建てられた建物では、屋根を軽量化したとしても構造体の強度が足りず新耐震基準を満たすことができない可能性があります。
とはいえ、屋根を軽量化する意味がないという訳ではなく、軽量化することで必要耐力は少なくなり、地震時の揺れ幅を小さくすることは可能です。
そのため、耐震性を向上させるための屋根リフォームでは、屋根材の軽量化だけではなく建物全体の耐震診断を行い、建物の強度を総合的に見直すことが大切なのです。
屋根軽量化のリフォーム費用は補助金の対象になる?
屋根軽量化を含む耐震改修工事を行う際には、補助金制度が利用できる場合があります。
各自治体によって補助金の内容や支給条件は異なりますが、耐震診断によって補強が必要と判断されれば、補助金を活用できる可能性があります。
耐震改修工事には、「建物の基礎」「接合部の補強」「壁の補強」「屋根の軽量化」の4つがあり、重い屋根を軽い屋根に葺き替える工事に関しても、補助金の対象となる場合があります。
ただ、耐震改修工事を行えば補助金が支給されるという訳ではなく、自治体によって手続きの方法や支給条件、支給金額などが異なり、「旧耐震基準で建てられた木造住宅」が対象となるケースが大半です。
また、自治体によっては「耐震改修工事」に対するものだけでなく、「耐震診断」に対する補助金が設けられている場合もあるので、耐震診断を受ける前にお住いの自治体で実施されている補助金制度を確認してみましょう。
まとめ
屋根軽量化リフォームで、重い屋根から軽い屋根に葺き替えることによって、屋根の重量を小さくして建物自体にかかる負担を軽減させ、地震の際の建物の揺れ幅も抑えることが可能です。
ただ建物の耐震性は、必要耐力や耐力壁のバランスが非常に重要です。旧耐震基準で建てられた建物では、構造体の強度が足りず新耐震基準を満たすことができない可能性があります。
そのため、屋根を軽量化したから安心という訳ではなく、建物全体の耐震診断を行い、建物の強度を総合的に見直したうえで屋根を軽量化することが重要です。
また、各自治体によっては耐震化に対する補助金制度を実施している場合もあり、制度を上手く活用することで費用負担を軽減できる可能性もあります。
ただ、実施状況は各自治体によって異なりますので、自治体のホームページや補助金・助成金情報をまとめたサイトを確認するようにしましょう。